きみが泣いているのを知らなかったよ。
ボクはいつでもきみの傍にいられるわけじゃないんだ。ボクだってそれをわかっていたし、きみだって理解していた。でも、それでも耐えられなくて泣いてしまうきみ。ぼくはそれすらもわからないまま、きみの傍にいることもできないで、ただきみを泣かせているだけ。

の涙を見たときに、何がおきたかわからなかった。ボクが帰ってきた静かな部屋に、かすかに聞こえる嗚咽と、鼻をすする音。真っ暗だった部屋に電気をつけると、が床の上で小さくなって震えていた。ボクはいちもくさんにかけより、彼女の小さくて細い体をめいいっぱい抱きしめる。聞かなくたって、言われなくたって、が考えていることぐらいわかった。その肩が震える理由なんて、手に取るようにわかるんだ。

ぜんぶボクが悪いんだ。

「ごめん」
「ハヤトくんの、せい、じゃ、ないよ…」

途切れ途切れのきみの声。消えそうなの声。
溢れてやまない涙をぬぐってやると、は嬉しそうににこりと笑う。それでも涙はとまらないままで、ぼくは彼女の細い肩に自分の顔を埋めた。
のあったかい匂いがする。動かないボクの背中に、君が腕を回して、優しく撫でてくれた。まるで、ボクが泣いているようだ。泣いているのなのに。ボクじゃないのに。

「ありがとう」

がどういう意味を込めていったのかわからない感謝の言葉。

「ううん、ボクのほうこそ、ありがとう」

ボクからは、いろんな意味を込めて。
ボクを待っていてくれて、突き放さないでくれて、そして抱きしめてくれて、ありがとう。いままでもこれからも、やむことはない謝罪の言葉。ボクたちをつなぐのは、これだけで十分なんだ。



強さ弱さの方程式



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