私が君と出会った頃には、既に君の聴力は無かった。
もともと難聴であった君は、すでに聴力の限界を感じていたのだろう。耳が聞こえずとも、辛い顔など1つも見せたことはなかった。
だからかもしれない、君以上に、私が辛いと感じてしまうのだ。それは、君が口から紡ぎ出す音色を聞けないことと、そして私が紡ぐ音色をその耳に受け入れてもらえないことが、大きな理由であるのは確かだ。

「一番聞いて欲しいのは、君なのに」

私の言葉を理解することはできるのだ。それは今までに訓練されてきたものである。私の口の動きで、何を言っているかが理解できるらしい。でもそれも、私が君に向いていなければ意味をなさないことである。例えば人混みの中で君の名前を叫んだとしても、私の声は君に届くことはないのだ。

自分でも、きっとひどい顔をしている。こんな顔を、今まで何度彼女に見せてきたのだろうか。その度に、今のように、ゆっくりと私の頭を撫でてくれる。君のその手に、どれだけ私は救われてきたのだろうか。君に一体、何が返せるというのだろうか。
どうすれば、私は君に幸せを与えられるのだろう。

『一緒にいてくれるだけでいいの』

発音があまりにもままならない、意味すらちゃんと理解することも困難な、かすれた声が聞こえた。
彼女の耳には届かない声は、私の耳には確かに届いた。



ずっと君は

かわらないままで







 

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