トキヤの恋人になったのはもう3ヶ月も前だ。 私から告白して、駄目だと思っていたのにトキヤからOKを貰えた。その時は明日地球が滅亡してもいいとさえ思った。 今はどうだろうか。 トキヤがHAYATOをしていることは、パートナーを組んだあの日に既に知らされていたので、忙しいことはわかっている。でも、付き合う前と今と接し方も行動もなにもかわらないのだ。なにこれ、トキヤは別に私のこと好きじゃないの?私たち恋人なんだよね?キスもしてないし二人でレコーディングルームにいてもラブいムードすら見えて来ない、これはなんなの!?あまりにもせつなすぎて、ある意味明日地球が滅亡してもいいと思った。 そして今は、私の部屋で次の課題の打ち合わせ中。私の部屋の同室の女の子は2月前に学園をやめていったので、今は私だけの部屋である。打ち合わせにはうってつけだ。二人きりを邪魔されることはない。なのに。なのにどうしてなにもしてこないの!?
「じゃあ曲調はバラードで、切ないよりは願いというイメージで……どうかしました?」 「なにが?」 「すごい顔をしていますよ」 「それはどうも」 「……眉間に皺がひどいですが」 「トキヤほどじゃないよ」
自分がそんな顔をしていたなんて、トキヤに言われて初めてわかった。なんとか眉間の皺を引き延ばす。
「…このイメージは嫌でしたか?」 「いいえそれでいいです」 「じゃあ何が不服なのです?」 「べつに」 「………」
言ったところで何が変わるのだろうか。だってキスもハグもしないってことは、私のことをやっぱり好きなんかじゃなかったってことじゃないか。
「……、私のこと好きじゃないなら、無理して付き合わなくていいよ」 「…は?」 「パートナーとして気まずくなることがこわいなら安心して、私そういうのないし。ちゃんと友達に戻れるタイプだから」 「…なにを言っているんです?」 「だって!キスだってしてこないなら私に気がないってことでしょ!?」
声を張り上げて言った。目の前のトキヤはびっくりしているようて、目を見開いていた。そうしているとHAYATOもっと似てるよ。 携帯だけをやみくもに掴んでドアへと向かう。トキヤと一緒にいたって今はなんにも楽しくなれない。
「、待ってください」
思い切り後から右手を掴まれた。付き合ってから初めて腕なんか掴まれたよ。変だよね。
「やだ!離してよ!」
トキヤの手を大袈裟に振りほどく。同時に後を振り返ると、まるで愕然としてどうすることもできないような表示をしたトキヤがいた。振りほどかれた彼の手は、ぶらんと彼の肩から下がっているだけ。私は踵を返してドアにむかった。
「だめ、です」
彼の声と一緒に、私は後からトキヤの両腕に包まれた。トキヤは私の肩に顔を埋めているのか、彼のさらさらな髪の毛が私の頬に当たっている。少しだけ、奮えていた。
「…なに」 「………、違うんです、君に気がないわけじゃない。ありすぎるぐらいなんです」 「だから?」 「その…、あなたにどう接したらいいのかわからなかったんです。恋人が出来たのは、初めてで…」 「え」
トキヤって今まで付き合ったことなかったのか。まあ確かにこの性格の人と親密になるなんて、普通の学校行ってたらないかもしれないけど。
「大切すぎて、どう触れたらいいのかわからなくて」 「……、ヘタレ」 「なっ…!」 「ばか」
くるりと振り向いてトキヤの胸に顔を埋めてやった。トキヤは少しわたわたしてから、私の背中に手をまわして抱きしめてくれる。細い体のラインからはわからないしっかりした厚みを感じた。
「じゃあ恋愛一年生の一ノ瀬くんに、先輩がお付き合いについておしえてあげる」
じっくり時間をかけてね。 うろたえたトキヤに思い切りキスしてやった。
心の準備は
できていますか?
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