ごめんなさい、と彼女は泣きながら俯いていた。
「どうしたの?」と柔らかく問いかけたぼく(私)の言葉に、ふるふると首を振るだけの同業者。
震える背中をゆっくり撫でてやると、まるですがりつくかのようにぼく(私)の服を掴んでわんわん泣き始めた。

彼女が謝罪した理由を、私は知っていた。
彼女は口にこそ出したことはないが、私と同じように仮面を被って仕事をしているのだ。
明るく振る舞いはするが、それでも本心は気弱でいつもビクビクと震えている、それが本当の彼女であることを理解していた。
それに関して、私はなにを問いただすわけでもなく、ただひたすらに彼女がそれを自分の口から伝えてくれる日を待っていた。
時折、彼女の小さい口からもれる「ごめんなさい」の言葉。
そして泣くのを我慢している嗚咽。

彼女が本心を出すのが先か、それとも私が先なのか。
まだそれは今の段階ではわからない。そしてそれを伝えた上で、この恋人とも友人ともとれない曖昧な関係がどうなってしまうかも。
それを恐れて、私も彼女も先に進めないでいるのだ。









 

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