さようならと言われたのは、つい先ほどのことでした。

「ごめんねトキヤ」

なにがおこったか理解できない頭をなんとか働かせて、申し訳なさそうに目を伏せるを見つめる。

「……いえ、仕方がありません」

交際を終わりにするというのに、これはあんまりだ。自分でもそう思う。
でも、私たちはこうやってさらっと終わらせることしかできないのだ。始まりもそうだった。愛やら恋やらそういうものは、たしかにあった。でも私たちの間にあったのは、それよりも深い憧れだった。
お互いに惹かれ合ながらも、それが恋心より崇拝のようなものが勝っていることを知っていたのだ。
だから手も繋がなければ、触れ合うこともなかった。

彼女がいなくなった教室で、呆然としていた。なにも手につかない。彼女とはパートナーではないから、これで終わりなのだろう。
そう思った瞬間に、今までに感じたことのない喪失感に教われた。私にとって彼女は、ただの憧れだったのだろうか。

そう考えてしまったらもう手遅れだ。私は勢いよく教室を飛び出した。玄関までの道をひたすらに走る。3つ目の角を曲がったところで、膝を抱えている彼女が目に入った。泣いているのかもしれない。

徐々にスピードを落とし、彼女の目の前にたどりつくと、ぐっとその腕を掴んで引き上げた。驚いている彼女の瞳からは、確かに涙の粒が見える。

「え、トキ、なんで、」
「あなたこそ、どうして泣いているのですか」

本当はお互いに、言わなくてもわかっていたのだ。このまま進めない距離が、つらいだけだったのだ。
彼女の正面に立ち、顔を見据えて小さく息を吸い込んだ。心臓が、私らしくないほどドキドキしている。

「…、好きです」

別れは彼女から切り出された。なら、今度は私から繋ぎとめるための言葉を紡ごう。
彼女の瞳から涙が溢れた。そして何かを言おうと口を開いた瞬間に、私は自分の唇でその言葉ごと塞いでやった。


君にしか出会えない







 

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