明日は私もトキヤもオフなので、今日はトキヤに夜の8時に部屋に来るようにと言われていた。
トキヤは今日の仕事が終わって家に着くのは7時すぎだって言っていたけれど、部屋の主の姿はどこにもなかった。きっと仕事が長引いてるんだなあ。
私は元々合鍵を貰っていたので、それで彼の部屋におじゃまさせていただくことにした。
それに、お帰りなさいって言いたいし…。




事務所の寮に戻れば、自分の部屋の明かりがついているのが見えた。が来ているらしい。時刻は8時半。予定より撮影が長引いてしまった。彼女に申し訳ないことをしてしまったと罪悪感。
急ぎ足で部屋の前まで行き、鍵を開けて中に入る。短い廊下の先にあるリビングの扉を開ければ、テレビの音が聞こえた。音也が出ているバラエティー番組のようだ。

「すみません、お待たせしてしまいまし、」

なぜ私がそこで止めたかというと、がソファの上でこくりこくりとうたた寝をしていたからである。そういえば、彼女も今日は夕方あたりまで打ち合わせで歩き回ると言っていたような…。
とりあえず、ずいぶん疲れているようだ。人の家でうたた寝など、さすがのでもなかなかしない。

「うーん……はやとののだきまくらぁ…むにゃ…」

寝言まで。一体どんな夢を見ているんですか。HAYATOの抱きまくらだなんて。
確かに先日、にHAYATOの抱きまくらを差し上げた。数年前に企画で作られた限定品で、彼女は手に入れることができなかったらしいはHAYATOの大ファンなのだ。今でもライブのDVDをよく見ているし、部屋にはポスターも貼ってある。正直やめてほしい。でもやめろと言うと泣きそうな顔をするので、言えないのだ。
ということで、運が良いのか悪いのか、抱きまくらを所有していた(クローゼットの奥底に眠っていた)ので、彼女に差し上げたわけだ。それでこの夢をみているのかもしれない。

「…、そろそろ起きてください…風邪を引きますよ」
「……ん……、トキヤくん…?」
「ただいま」
「わ!お帰りなさい!ごめんなさい寝ちゃって!」

あたふたしだしたを落ち着かせ、とりあえず私は上着を脱いだ。

「私の方こそ、帰宅が遅くなってしまってすみません…それより、ずいぶん幸せそうな夢を見ていたようですね」
「へ?」
「寝言で、HAYATOの抱きまくらと言ってましたよ」
「えっ!」
「そんなに嬉しかったんですか?」
「そそそりゃもう勿論だよ!!」
「そうですか、少々複雑ですか、貴女が喜んでくれたのであれば私も嬉しいです」

ゆっくり頭を撫でてやると、は気持ち良さそうに目を細めた。私に寄り掛かって、腕を絡めてくる。本当に、甘え方が上手い。

「あっ、ところで」
「はい?」
「私、これが欲しくて」

指を差したそれは、ノートパソコンのディスブレイ。インターネットブラウザでショッピングサイトを開いていた。そして彼女が欲しいと言ったそれは、HAYATOが腕枕をしてくれているようなリバーシブルの特殊なクッションだった。
…抱きまくらだけでは飽き足らないというのか。

「これ、見たらまだ通販で販売してるんだよね…買うべきだよね?やっぱり」
「やめてください」
「えっ、なんで!欲しい!」
「お金を出してまでそんな下らない物を手に入れようとしないでください!」
「く…くだらな…っ」

の瞳が潤みはじめた。やばい。下らない理由とはいえ、彼女を傷付けてしまった。
とりあえず抱きしめて後頭部を何度もゆっくり撫でる。は私の背に腕を回して、ぎゅっと服を掴んでいるようだ。

「…貴女は欲しいのかもしれませんが、私は、その、複雑です。あまりいい気分はしないですよ」
「うん…ごめんなさい…」
「でも、そんなにHAYATOのことを、今でも好きでいてくれているんですね」
「もちろんだよ…HAYATOを嫌いになるなんて絶対できないよ」

あまりにも嬉しい言葉を貰ってしまった。どうしようもなく胸が高鳴って、彼女を強く抱きしめ、耳元に口を寄せる。そして、

ちゃん、ありがと。ボクはいつでもちゃんのそばにいるよ」
「わ、わっ!」

思わずHAYATOとして語りかけてしまった。
驚いたは私の腕を抜けて顔を上げるが、私はすでに私に戻っているので、だけが赤面してあたふたしている。さっきもこんな感じだったことを思い出した。

「とりあえず、クッションの購入は諦めてください」
「どうしてそうなるの」
「だって、私がいるんですよ?貴女が望むのであれば、腕枕ぐらいいつでもしてさしあげます」
「ど、どうして、そうなるの!」
「おや、恥ずかしがっているのですか?じゃあ今からベッドで早速」
「わっわわわまま待って!心の準備が!」

を抱き上げてベッドルームへ。
今日は散々いじめて差し上げましょうか。
そんな気分です。


あなたのためなら

なんだって


(HAYATOには負けませんよ)










 

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