トキヤが長期ロケに行ってから、2週間が経とうとしていた。かなり忙しいのだろう、私がメールをしても、返ってくるのは夜に1、2回。仕事だから仕方がないのは私でもわかるけど、やっぱり寂しいものは寂しい。そんな状態で仕事がなんとなくはかどらなくて、気落ちする一方だ。
トキヤは今なにをしているんだろう。ちゃんとご飯食べたかな。痩せたりしてないかなあ。私はあまり食べたい気分になれなくて、ここ数日はコンビニのおにぎりばかり食べてる。こんな生活トキヤに知られたら怒られちゃうね。
夜は布団に潜っても上手く寝付けない。そわそわして落ち着かなくて、トキヤから前に貰ったメールを読み返したりしてる。
今だって、時計は日付を跨いだのに瞼が下りてはくれない模様。仕方ないのでベッドサイドの電気をつけて、トキヤの写真集を手に取った。
ちなみにこれはつい1ヶ月前に発売されたもので、トキヤの初めての写真集である。今回は過度なグラビアは抑え、オフショットのようなラフなものからモデルさんみたいにかっこいい写真がメインだった。そして予約購入特典として、なんとHAYATOとトキヤが対になっているような見開きのページがついてきている。えっ、もちろん予約しましたとも!ちなみにトキヤは、もうHAYATOの衣装は着たくなかったのですが…とうなだれていた。
そんなことを思い出しながらゆっくり写真集の表紙を眺めていると、突然携帯の着信音が鳴り響いた。見れば、トキヤから。私は慌てて通話ボタンを押した。
「とっ、トキ…!」
「、こんな深夜にすみません。寝るところでしたか?」
「い、いや、まだ」
「おや、睡眠不足になってしまいますよ。…と、こんな時間に電話をかけてきた私が言える台詞ではありませんね」
いつものトキヤだ。無機質な携帯電話から発せられる暖かい彼の声に、安堵感が溢れてくる。どうしよう、すごく嬉しくて、幸せ。
「忙しくて、メールもなかなかできなくてすみません」
「い、いや、仕事だし…仕方ないよ。それより今は大丈夫なの…?」
「ああ、明日の撮影が昼からになったんです。だから大丈夫ですよ」
あまりにも嬉しくて、話したいことがたくさんあったはずなのに、何故か口が上手く動かない。携帯電話越しに聞こえるトキヤの声が、いつもと違ったように聞こえてドキドキしてしまう。
「それより…あなたのことです、寂しさのあまり生活や仕事に支障をきたしているのではありませんか?」
「う、」
「図星ですね」
痛いところをつかれてしまった。まあ、これぐらいトキヤにバレているだろうとは考えていたけど、さも本題だというようにトキヤに切り出されるとは思わなかった。
「そんなあなたに朗報ですよ。撮影がスムーズに進んでいるので、予定より1日早く帰れそうです」
「ほんと!?」
「嘘なんてついてどうするんですか」
私が少し大きな声を出してしまったので、トキヤが苦笑していた。だってトキヤがいないことによって生活が乱れるのだ。早く帰ってきてもらえるとありがたい。仕事としても、精神的にも、私にとってトキヤがいるかいないかということが大きく作用することを、今回初めて実感した。
「帰ったら、真っ先にあなたの部屋に行きますね」
「う、うん、あの、」
「なんです?」
「……抱きしめて、頭を撫でてもらいたいです…」
最後は小さな声になってしまった。それでもトキヤの耳には聞こえていたらしい、くすりと笑った彼の声が私の耳に伝わる。少し顔が赤くなったのが自分でもわかってしまった。電話でよかった、これが彼を目の前にしての会話だったら、恥ずかしくて布団を被ってしまう。
「…それだけでいいんですか?」
「えっ」
「キスはしなくても?」
「なっ、そ…っ!」
「どうしますか?」
「……して、ください」
私がそう言うと、トキヤはまた楽しそうに笑って、そしてこう付け足した。
「してさしあげますよ。もちろん、その後のことも」
He is everything to her.
こんなにドキドキしたら、別の意味で眠れなくなってしまいそうです。
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