早乙女学園を卒業してからもう12年が経ったというのに、私はあの日々を鮮明に思い出せる。それぐらいに、あの日々たちはキラキラと輝いていた。
それは私だけではなく、同じ時間を共にしてきたみんなにもいえること。あの日々を私と一緒に過ごした彼らもまた、同じように輝いていた。それぞれの光は色が違い匂いも、柔らかさも違い、個性が十分にあった。その光の、なんと美しかったことか。

今となってはそれぞれ仕事で忙しくなってしまい、会うことも減ってしまった。しかしあの日々を共有してきた私たちは、途絶えることのない絆で結ばれている。

なんて幸せなことだろう、まるで運命のようだ。でもこれは、必然に違いない。
そして出会うべくして出会ったように、結ばれるべくして結ばれるのである。


「なにを物思いにふけっているのですか?」
「わ、」

控え目な靴音を鳴らして入って来る彼。私の背中に向けられた問い掛けに驚いて、ドアの方を振り向く。空気の振動にも無駄一つみられないスマートな動きで、私へと向かって歩み寄ってきた。

「綺麗ですね…誰にも見せたくない」
「もう、冗談やめてよ」
「本当ですよ」

彼はそう言いながら、私の頬に手を添える。そして反対の頬にリップ音をたててキスをした。

「そこまでです、ハヤト。いい加減にしなさい」
「ありゃ、もうバレちゃった」
「ふふ、私は最初からわかってたよ?」
「トキヤに内緒でちゃんを貰ってこうと思ったのにぃ」

頬を膨らませて拗ねる、スーツ姿のハヤト。いつもとちがってフリルのない服装で、正装と言わんばかりのきっちりした装いに少し見惚れてしまうほどだ。こうして見ると、本当にトキヤみたい。まあ、髪の毛はちょっとトキヤより跳ねてるけど。

「馬鹿こと言ってないで、来賓のお相手をしてきてください」
「はいはーいっ。じゃあちゃん、また後でね!」

ハヤトは手を振り、ぱたぱたと控室へと去って行った。イタズラっ子なハヤトに、トキヤはいつも手を焼いている。でもそれを見るのも、私にとっては楽しい日課になってしまった。
トキヤがため息を1つはきだし、ようやく私を振り向く。

彼は卒業後、5人の仲間とグループユニットを組んで活動していたが、最近はそうしながらもそれぞれが個人活動をするようになった。トキヤは俳優業が増え、アイドルの枠を1つ越えたようにも思う。

「みんな来てますよ、一足早く挨拶してきました」
「早く会いたいなあ」
「…、」
「…トキヤ?」
「いえ…、そんなに綺麗なあなたの姿を、誰にも見せたくないなんて思ってしまいまして」

彼の細く白い指が、私の頬を滑った。その手に自分の手を重ね、目を閉じる。手の平から伝わる彼の体温が心地好い。

「これじゃまるでハヤトですね」
「そうだね。でも、見せびらかしてよ。今日は許されるんだから」
「それもそうですね…それでは存分に、私の可愛い花嫁を見せびらかすことにしましょう」

ハヤトが先程キスをしたところに、トキヤがキスをした。

「わ、」
「消毒です」
「もう…」
「あなたも悪いですよ、ハヤトのキスを拒まなかったんですから」
「今日から私のお兄ちゃんでもあるのに?」
「あなたは私のものですので」

ちゅ。反対の頬にもキスをしてくる。私も負けじと彼の頬にキスをすると、トキヤは嬉しそうに笑って私を抱きしめた。彼の香水の匂いが、ふわりと鼻をかすめる。

「あなたと出会えて、幸せです」
「私も、トキヤがいてくれてよかった。これからもよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」



マトリモニ








 

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