帰宅するのは8時ぐらいになります、と、長期ロケに出ているトキヤからメールがきたのはお昼すぎ。
この調子じゃあ、自分の誕生日のことなんて忘れているんだろうなあ…。
でも、歳を重ねるごとにだんだん誕生日の訪れを気にすることが少なくなっていくのは、誰にでもあることなのかもしれない。


時刻は既に11時を回っていた。
まぁ、仕事がなんらかの理由で延長することなんて、この業界ならよくあることだ。大して気にはとめない。
ただ、いつもなら遅くなるときはそれなりの連絡をよこす彼だから、一報すらないことは気になっていた。
…ただの携帯電話のバッテリー切れだと思うけど。


せっかくの誕生日仕様の夕食たちは、すっかりみんな冷めてしまった。
この時間に帰ってきたとして、今から夕食にするほどトキヤの体力も残っていないだろう。なにか食べてきてそうだし。明日のご飯になるかなあ、これ。
ソファにもたれて、明日の予定を巡らせていると、案の定睡魔が押し寄せてくる。
少しだけ眠ろう。
私は携帯電話を握りしめたまま、重たくなったまぶたを閉じた。






「……、」
「ん…」
「…、… さい、」
「んん……」
、こんなところで寝ていたら風邪を引きますよ」

聞き慣れた声に飛び起きた。
まだぼやける視界には、くすりと笑う顔がぼんやり見える。

「あ…おかえり」
「ただいま、わざわざこんなところで寝ながら待っていなくてもよかったのに」
「いや別にそういうわけじゃ…」
「遅くなってしまって、すみません」

時計を見れば、既に彼の誕生日は終わっていた。
さっきまではこれっぽっちもなかった、残念な気持ちが込み上げてくる。
やっぱりちゃんと6日に言いたかったなぁ。

「携帯電話のバッテリーが底を尽きてしまって」
「だろうなぁとは思ったよ」
「あなたに、ちゃんと誕生日に祝っていただけなくて残念です」
「自分で言うな自分で!って、ちゃんと誕生日覚えてたんだね」
「自分の誕生日ですから、一応は」

そう言うと、トキヤは上着をかけにクローゼットに向かった。
その後ろ姿を見て、ふぅと小さくため息をつく。
やっぱりトキヤもちょっとは楽しみにしてたんだろうな。

「誕生日、おめでとう」
「…そういうのは、できれば耳元で囁いていただきたいですね」
「はぁ…なにばかなこと言ってんの」
「ふふ、すみません」
「…おめでとう、トキヤ」
「ありがとうございます」

シャワーを浴びるらしい、トキヤが着替えを手に持ってやってくる。
私に近寄り、額にひとつキスをして、嬉しそうに笑った。

「そういえば、あの料理は誕生日パーティーのためのものですか?」
「え?ああ…まぁ、念のためつくっておいたというか…」
「実は夕食を食べてなかったんです…お腹が空きました、シャワーを浴びたら食べても良いですか?」
「えっ、も、もちろん…じゃあ暖めておくね」
「はい、よろしくお願いします」

トキヤがバスルームに消えたのを横目に、私は再びキッチンへと立ち上がる。
さて、彼のために、今から暖かいスープでも追加しようかな。
買っておいたカロリー低めのケーキも出さなきゃ。

二人だけの、真夜中の誕生日パーティー、たまにはこういうのも悪くないよね。



集めた夢屑








 

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